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2017年5月18日 (木)

またも、「なんだよ!」

なんだよ、結局、苅部 直の『光の領国 和辻哲郎』岩波現代文庫・学術24、2010.11 全部読んじゃったよ。それにしてもこの本、さすがに東京大学の教授をやってるだけの人が書いたとあって卒がないね。まあやばいところはできるだけアッサリと触れて、かといって過去の人物をただひたすらヨイショして持ち上げるばかりでもなく、まあそれなりにカッコつけてみるってことはできている本だ。それにしても、岩波現代文庫に入れるに当たって、3編ほどの付録資料が追加されたんだが、このさりげなく挿入された3編のうち、3個目の破壊力はなかなかのものだ。文庫化される前の1995年の創文社版にはなかったものだから、苅部さん、これが入れたくて文庫化したのかな、とまで思えるくらいすごいものだ。

この付録を見るまでもなく、和辻哲郎という人が、覚悟の上で総力戦体制にコミットしていったことは、彼の『倫理学』をみれば、ハッキリしていることは、すでに前のブログで触れた通りだ。このような「大知識人」といえども、時代の雰囲気に同調しというか、自ら笛をふいて、それを吹聴していったことが「日本哲学」の必然だったのかとおもうと、本当に暗澹たるきもちになる。そしてその事実を知ってか知らずか、相変わらず、何故に和辻が「ロマン主義的冒険」へと自らおもむいたのか、きちんと整理することなく、ヨイショ記事を書き続ける平成時代のバカどもにはがっかりするしかない。まあバカは相手にしてもしかたないから、それはいい。僕としては、「ロマン主義」に陥りがちな心のありかたを自己反省してみたい、というそれだけのことである。前回ふれた、和辻の一般人に対する「無神経」っぷりに関して言うと、たとえば、和辻なんかよりはるかに悪智慧がはたらかない 平泉 澄なんて学者は、大学で 「農民の歴史を学びたい」と言った学生に対して「豚に歴史がありますか?」などと答えたために、後にすっかりそのことを言い立てられるようになってしまったものである。それに比べると和辻の差別意識はそこまでひどくはないように見える。しかしそれはテクストを読めない人にとってそうであるだけなのだ。

たとえば苅部が、ここで問題としている和辻論の枕として「土下座」という掌編を取り上げる時も、「日本回帰」やら「「形」を重んじること」という本のテーマにとって都合のいいことを取り上げるのだが、僕がこの「土下座」を読んだときに真っ先に感じた、ある強度を伴った記述は、和辻のほとんど敵意のこもった視線のもとに置かれた《娼婦》たちの登場するところなのだ。苅部は要領がいいから、その点についても無視はせずに多少は取り上げてみせる。そして結局は和辻の体験した村落の「共同体体験」は、和辻の「思考の閉域の内で展開されたドラマにすぎない」という。だが、問題はそこじゃないだろ。あきらかにそこにいる人間を、共同体の外部の人間として切り捨てる態度そのものが問題なんだろ。この時期の農村にそうした労働者がなぜ存在するのか、そういう社会的背景をまったく無視してしまう、いや無視するどころか敵対的に捉える和辻の姿勢そのものが、根本的に変なんじゃね? っていう風にはいわないところが所詮は東大の大センセイ、ってことなんだろうな。

平泉の「豚に歴史がありますか?」の差別意識と、「娼婦」の視線とぶつかる和辻の差別意識と、どっちがマシか?という議論をしようというのではない。本人が気づかない差別意識、っていうのがまあ、僕には興味ふかい、ってことだ。付録資料の一つ目、津田青楓とその妻山脇敏子の離婚を論じた 大阪朝日新聞1926年8月5日 の記事「家庭の私事」も、和辻本人としてはかなりな「正論」を述べているつもりなのであろうが、肝心の妻敏子のことは名前さえ触れられないのである。それどころか、敏子の留学を「生きがいを感じるために・・パリくんだりへ出掛け」という表現にはもう差別意識バレバレである。そのあとでは留学の理由を「パリへ出掛けたのは、世間へ出て人目をひきたいといふ妻らしくない慾望」のためと決めつけているのも、もはや笑ってしまうくらいのシロモノだ。

人々によく読まれ、影響力を持つ和辻のような著述家は、多かれ少なかれ同時代の人々と同様の差別意識や世界観を共有しているのだろう。だからそのことに目くじらをたてる必要はないのかもしれない。でも、付録資料の三つ目にあるように、一般人みたいに「米英畜」の「聖戦」を叫んじゃうようになったら、これはカンベンして欲しいわ。


ごめんよ、嫌な話ばっかになってしまった。ホント、良い子にとっては聞かせてはいけない、
「お耳汚し」になってしまったね。ちなみに「お耳汚し」ということばは教員会の時にS村先生が使ったのが人生で初めてのケイケンだったな。Eノさんとよく酒飲んじゃ話題にしたわ。
じゃ、これに懲りずにまた見てね。

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